Newsletter No.11

2018年度ランタン酪農組合報告とランタン谷牧畜の未来

はじめに

ゴタルー会議2019-2


 ランタン酪農組合(Langtang Dairy Cooperative、略称LDC)の実質的な運営は、今年の搾乳シーズンで2年目に入ります。2015年大震災発生時にスタートさせた牧畜復興支援の一環として、ゾモファンド(失われた家畜ゾモの購入)立ち上げからは4年になります。酪農組合はその増えた家畜から得られるミルクを利用し、牧畜に従事する一人ひとりが乳製品を作り、運営に参加する。それを目的に発足したものです。これには、岡山県の吉田全作さんから受けた研修が基盤になっていて、酪農家としてのスタートを促すものでした。
 今のところ、酪農組合の運営は自立運営までにはいたっておらず、皆様からの寄金を原資とするランタンプランからの支援が柱になっています。
 今年の酪農組合をどうするのか?2019年6月19日、ユル地区の草地にてゴタルー会議が開かれました。そこで話し合われたこと、そこから見えてきたものを考えてみたいと思います。
 末尾に2018年度LDC収支報告とランタンプラン会計(2015年度〜18年度)を掲げました。
 

ランタンの牧畜について

1. 今年のゴタルー会議から

ゴタルー会議2019-2


 会議が行われた6月19日は、ゴタルーたちはまだ冬の放牧地、村周辺から標高3000メートルの下方にあって、廃業したもの継続するものなど20名前後が集会し、以下の点が話し合われました。組合事務所側は組合長のセンノルブと助手のバブ・ニマ(Nyima Lama)が出席。
 以下、センノルブ組合長との電話とメールでの報告の要点:
  1. 今年の乳製品作りは、キャンチェン・ゴンバでの6月4日祭り(=西暦8月4日〜6日) 終了後より開始し、10月中旬、村周辺に下降してくるまでの約2ヶ月半。今年は6月24日に家畜の一斉上昇移動を開始。キャンチェンでの祭までの一ヶ月余りのミルクはキャンチェンチーズ工場へ提供する。
  2. 今年の生産者は12名(軒):ゴンバ・リンジン、チューキ(女性)、ツェリン(女性)、アンギュル、 プバ・ラクパ、 セダル、ニマ・チェーマとグリ兄弟、トゥンドゥ・ワンドゥ、ソナム・ギャルツェン、ノルブ・パルダー、ゴンボ、パルコー
    12名の中には去年LDCに非協力的だったパルコーが復帰。
    20名いたもののうち、廃業8名:元々名前のみで家畜は委託放牧し、乳製品作りに参加していなかった者3名、老齢のためにやめた者2名、転職もしくは廃業2名、死去1名。実質的な減少数5軒。ただし、グループ内の家畜頭数は廃業の2名分以外は、縁者が飼育もしくは委託管理している。
  3. 前年の経験からキェンチェンチーズ工場よりはLDCの方が利益が大きく、今年はゴタルー全員で乳製品を作る。
    去年作らなかったカチョカヴァッロはシーズン終盤に作る。
  4. ゴタルーたちが乳製品を作り始める8月初めまでに「センターハウス」を完成させる。
    センターハウスではバターを作り、酪農家による乳製品(バター、クリームチーズ、カチョカヴァッロ)を販売する。

2. 問題点とその後の展開など

1) 減少するゴタルー

冬の報徳から夏の放牧へ出発


 報告の中で組合長も危惧していたのは、ゴタルー(牧畜専従者)が半数近く減ってしまったこと。震災で家族や壮年のゴタルーを数名失い、残る半数を5、60才以上が占めていたため、老齢を理由にやめた2名は想定内ではあったけれども、若い2名の廃業は復興半ばにあって、残念に思われます。一人は宿屋業への転換。震災後に結婚し、通常夫婦で放牧地の仕事を分担しているが、小さな子供を抱えながらでは継続してゆくのは難しかったのでしょう。もう一人、カンバ・ドルジェは最も優秀な酪農家でした。新しい乳製品作りにも、夫婦二人で熱心に取り組んでいただけに、なんとか止まって欲しかったと思います。
 一つの懸念材料は、廃業しても彼らの家畜はゴタルーの間で委託ないしは譲渡されているが、組合長の話ではカンバ・ドルジェは村外のものに売り渡したらしいのです。彼は震災後20頭余を譲り受け、ゾモファンドから4、5頭を得ていました。
 村人たちは家畜がどこへ出て行ったのか口ではいいませんが、注視しています。個人の財産に関わることだからです。私には正直に知らせてきます。ゾモファンドのみならず、牧畜再興の元が私たちの支援にあると思っているからでしょうか。

祭り後にミルクの最盛期を迎える


 ヒマラヤの観光地では、常に開発と伝統の維持という難しい問題に直面してきました。 とりわけ牧畜は、経済効果を優先する中で、真っ先に波に飲み込まれるように減退していきました。ランタン谷は震災前よりその兆候はありましたが、復興を機に新しい機運も生まれ、センノルブ組合長などは率先して震災前に在った伝統を取り戻そうと努力しきた一人です。
 幸いというか、ほとんど毎日のように連絡してくるバブニマ(ニマ)がいつも言う、「ゴルーたちはLDCで働きたいんだ。」 なかなか現地のニーズに応えられない私には少し重荷に感じる言葉ですが、そういう若い人たちの意志をつなげ、残っている古い世代のゴタルーも継続して行くための環境作りも必要ではないかと思います。言い換えれば、現状を維持するだけでなく、新規に関わりたいと思わせる何か魅力あるもの、発展性のあるものを導入するのでなければ、牧畜衰退の流れを止めることはできないのではないかと思います。これからの課題です。
 

2)旧キャンチェンチーズ工場の試み

トゥンドゥ(65才)は息子夫婦をを手伝って放牧で暮らす


 ランタン谷の牧畜経済を維持していくためのもう一つの可能性として、スイスの援助を得て再出発したキャンチェンチーズ工場があります。こちらはミルクを買い入れて工場でチーズを作るという従来型のものですが、今年からスイス大使館などの援助もあって、ゴタルーから買い入れるミルクの値段もLDCと同じかそれ以上を支払っているといいます。その分、キャンチェンチーズ工場で売るハードタイプ・チーズの値段は去年より値上がりします。
  昨年、ゴタルーたちはチーズ工場へのミルク供給をあまりしませんでした。工場は、ミルクの確保のため、今年から新たにボテ・コシ(下流でトゥリスリ川)右岸のガドラン村の(タマン族)牛飼いたちを誘致し、ランタン谷で放牧させ彼らからミルクを集め始めました。工場の数人のスタッフも村外から来ています。
 このキャンチェンチーズ工場の新しい試みは、震災前であれば歓迎されたことでしょう。しかし、ゴタルーたちは、一部高齢者を除いて、既に自分たちで乳製品を作って売るという酪農家の道を選択しています。組合長はうまく折り合いをつけてやってゆく、と言います。

チャダンカルカ


 老婆心ながら、将来的に見ると、この試みには、いくつかの問題をはらんでいるように思えます。例えば、
  1. 過当競争を招かないか?
  2. 外部からの放牧が盛んになった場合の放牧地の運営はどうか?
  3. クンブや東ネパールで見られるように、大規模家畜所有者が不在地主ならぬ、不在所有者となって近隣
  4. 民族グループを使っての放牧の形態をとる場合、牧畜の伝統はいかに継承してゆくのか?.等々。



3)ランタン酪農組合センターハウスのこと

家畜が去った後の村。今年はジャガイモもオオムギもままあの収穫が見込めそうです


 これまでニューズレターを通じてセンターハウスについては度々触れてきました。その後一体どうなっているのか、と言う声も聞こえてきます。実際、ゴタルー会議で彼らが話し合ったことの4番目にセンターハウスを完成させるとありますが、現状はつい先日、内装に着手したばかりです。それも財源の裏付けのないままの見切り発車。一昨日のバブ・ニマのメールには、9月半ばには完成すると書いてあります。
 上でも述べたように、LDCの活動はランタンプランからの支援に拠っていますから、私が「うん」と言わなければ、先へ進めない部分もあるのです。弁明しか思いつきませんが、末尾につけたランタンプランの会計報告を見ていただいてもわかるように、活動資金はほとんど残っていません。チーズ作りを始めるにも生産者へのアドヴァンスが必要ですし、センターハウスの建設も完成までに内装工事人への支払いを準備しなければなりません。組合長にもランタンプランの事情は事あるごとに説明しています。それでも彼らはチーズ作りを始め、内装職人を集め工事を再開しました。そして毎晩のように、バブ・ニマからはMessenger経由で報告が入ります。叔父であるセンノルブの助手として、またこの春に結婚したばかりで、やる気満々なのです。

7一昨年より谷のあちこちに出現したコーヒーショップ


 村を見下ろす場所に立つ外観のみのセンターハウスの写真を眺めながら考えています。組合員たちが期待するこのセンターハウスを中心とした運営が、ゴタルーの減少に歯止めをかけ、酪農を魅力あるものに変えてゆけるのか。乳製品の販売方法、キャンチェンチーズ工場との競合に対するLDC製品の質の向上とローカルの人たちが入手しやすい価格設定など、ランタンプランだけでなく、このプロジェクトの成否は彼ら自身の努力と工夫にもかかっていると言えます。

薪集めは昔も今も

カンバ・ドルジェ・稼業は祈祷師。一度絶えていたのが彼によって復活しました。組合長の家にて

 

最後に

コーヒーショップ:お味は下界と変わりありません


 Newsletter No.11のお届けが遅くなりました。事情は上の.報告でお分かりのように、ひとえに私自身の対応のまずさからきています。ご支援の皆さんへは良くても悪くても進捗状況をお伝えすべきでした。そうすれば違った意見や助言をいただけたと思います。
 結婚したばかりのバブ・ニマ(Nima Lama)がいつも言う、「ゴタルーたちはLDCで働きたいんだ。ハッピーだと言ってる」が、バブ・ニマ自身の気持ちだとしても、その実現のためにもあとひと踏ん張りしようと思います。
 下の二つの会計報告に関するお訊ねやアドヴァイスなどいただければ幸いです。 末尾になりましたが、皆さんからの常に変わらぬご支援に感謝するとともに、忌憚のないご意見、ご教示をいただければ幸いです。
貞兼綾子/2019年8月23日
 
附 ① 2018年度ランタン酪農組合収支報告

附 ② ランタンプラン会計報告(2015年度〜18年度)