2018年4月24日〜5月20日、約1ヶ月に渡る春のミッションが終了しましたので、以下に報告します。

キャンチェンの台地。滞在中3日に一度は雪に降られました。

1 キャンチェン・ゴンバ再建完了

1.1 ローカルの技術

雪の日のキャンチェン・ゴンバ (撮影・樋口桂衣)

 もしかすれば、ランタン谷を久しぶりに訪れたトレッカーたちは、これが再建された山寺だと気づかないかもしれません。あるいはちょっときれいになったなという印象でしょう。
 世界の遺産登録のある建造物は現代科学の粋を集めれば、どのような古代の建造物も復元再生することが可能です。今回お寺の再建というかつて経験のない領域での支援は、ローカルの技術がもつすごさを教えられました。

キャンチェンゴンバ堂内。壁画と彩色はムグ出身のドルジェ・カルマロン師率いる仏画師集団が担った。

 逆にローカルの技術者からすれば、梁の長さで元の大きさ、木片に描かれた図柄の断片だけで、これはどの部分だという判断がつきます。これはローカルの技術がまだ途絶えていないという証であり、例えば仏の世界を描いた壁画(実際は薄い木綿製キャンパスに描き、完成したものを壁に貼り付ける)は、私や村人の記憶、また写真などで、東西南北の壁面を再生しました。これはチベットの図像学が広くチベット仏教文化圏に及んでいることのメリットといえるかもしれません。仏教絵画の流派によって、描き方、色使いなどの違いはありますが、モチーフは同じなのです。

 キャンチェン・ゴンバの描かれた壁画の特徴は、カギュ派の祖師達が南側の壁面半分を占めていることです。これは、この谷が、カギュ派の教えを受けたことを物語っています。実際には17世紀半ばから18世紀半ばころまで、この後ニンマ派の教えが今日まで続いています。
 お寺の骨組みは残った4本の身舎柱(もや)を中心に再生、描き出された東西南北の壁面、11m四方の仏の世界は、震災前のキャンチェン・ゴンバを忠実に再現しています。実際は全体として20センチほど高くなっています。建築はヨルモ(ヘランブ地方)の寺大工集団、内部の仏画や彩色はムグ(西ネパール)のドルジェ・カルマロン師率いる仏画師集団が担いました。着工は2017年5月、ほぼ1年をかけて再建されました。

キャンチェンゴンバ堂内

キャンチェンゴンバ堂内


1.2 落慶法要

2018年4月25日、大震災の3年目に、導師チューキニマ・リンポチェをお迎えして、キャンチェン・ゴンバ落慶の法要を行うことができた。

 2018年4月25日、キャンチェン・ゴンバは、カトマンドゥより導師チューキニマ・リンポチェを迎えて、ランタンリルン峰を背に、キャンチェンの台地を見渡す場所にて、3年ぶりに蘇りました。 丁度1年前の2017年4月17日、同じチューキニマ・リンポチェにこの山(寺)に居ました神々を閉じ込める儀式を執り行っていただきました。その1年後の2018年4月25日、閉じ込めた神々を再建された山に戻すラブネー(Rab gnas)の儀式を経てキャンチェン・ゴンバは元の場所に鎮座ましました。

ゴンバ・ラプネーの儀式を経て、キャンチェンゴンバは再生した。


 在家僧侶たちを中心に、村人全員が本堂に集い、1時間余にわたる法要はしめやかに進行しました。この儀式のあと、導師ご一行は乗ってきたヘリで下山。私は村人に再びキャンチェン・ゴンバに呼ばれ、村人全員から感謝とお祝いを受けました。
 キャンチェンゴンバは、チベット暦4月=西暦5月16日〜6月13日「サカダワ」の期間中の4日間(4月12日〜16日早朝まで)にわたって俗人の修行に使われます。また、チベット暦の6月4日祭り(今年は西暦の7月16日)は、この寺を中心に、ブッダシャキャムニの初転法輪と入滅を祝賀する仏教と谷にすまう神々への感謝と請願の祭りが5日間にわたって行われます。


村人から感謝と祝福のカター布を受けた。向かって左は、キャンチェンゴンバ再建を采配してくれたセンノルブ。

 村人たちの安寧と谷を守護する寺として末長く存続してほしいとねがいます。

1.3 総建設費用

 以下は、キャンチェンゴンバ再建を請け負ってくれたセンノルブの報告

  1. 総工費:750万+355万=1105万ルピー(日本円で約1203万円)
    うち建築部分の建材費、人件費、輸送費….6,500,000ルピー
    壁画、彩色等内装、顔料、輸送費…………..4,550,000ルピー
  2. その他のランタンプランからの支出
    ヘリチャーター代 2017年/2018年………$2700
    導師ご一行への布施(2017年)………………70,000ルピー
  3. ランタンワによる寄進
    導師と二人の従者への謝礼(2018年)………125,000ルピー
    セルトー(相輪)……………………………………46,000ルピー

2 ランタン酪農組合Langtang Dairy Cooperative2018年の運営方針の決定

2.1 ゴタルー会議

ゴタルー会議 ユル地区のサンライズゲストハウスの食堂にて

 ミルクのシーズン前の5月13日、ゴタルーたちとの会議は、村のサンライズゲストハウスの食堂を借りて、お昼過ぎから2時間半にわたって話し合いを重ねました。参加者は18名(3名の欠席):

チメー、セダル、サンギェ、アンギュル、ノルブ・パルダー、ロプサン、シンドゥム・ラクパ、ツェリン・ワンドゥ、テンジン、ニマ・チェーマ、トゥンドゥ・ワンドゥ、ドシンドゥム・ルジェ、ツェリン、プバ・ラクパ、カンバ・ドルジェ、ページュン、ゴンボ、ダワ 
欠席:ゴンバ•リンジン、チューキ、ソナム・ギャルツェン

 これまでのランタン酪農組合の運営方法は一旦反故にし、新体制で大胆な提案をする予定であった。しかし彼ら参加者の間でその提案を議論するうちに(自然発生的にと言おう)、何か一つの企業体を起こすような可能性を示した。それは私も、この新組織の元締めを引き受けてくれたセンノルブと監査のングードゥップでさえも予想もしていなかった展開であった。

2.2 ランタンプランの提案からゴタルー的展開へ

ゴタルーたちはゾモが子を産んだ証にミルクをもって集まってきた。今年は9リッターももらった!

 まず、去年までのランタン酪農組合のあり方を問い、次の提案をした。

  • 新組織は、キャンチェンにチーズ貯蔵庫、ユルにランタン酪農組合センターハウスを中心に運営。専業のスタッフをおかず、シーズン中はパートタイムのスタッフで賄う。
  • シーズン(チベット暦5月〜9月=西暦6月半ば〜10月半ば)中に製造した乳製品は全て酪農組合で買い上げる。
  • 乳製品の買い取り価格は労使(ゴタルーと組合)の話し合いで決める。

これに対して、ゴタルーたちが示した反応は以下であった.

  • 現在の3つの放牧グループそれぞれでミルクを集め、それぞれ経験のあるものが中心になって、乳製品を作る。
  • 目標はシーズン通して3000kg。

彼らが経験的につくれる乳製品は、

  • バター
  •  ハードタイプチーズ
  • クリームチーズ
  • カチョカヴァッロ

プバ・ラクパは去年カチョカヴァッロを一番たくさん作りました。秋の1ヶ月で10万ルピー以上の収入でした。今年初めて作ったというカチョカヴァッロをもって集会にやってきた!

 これを分業で行うということは、例えばカチョカヴァッロを上手に作れないものたちは他の作業で参加することができる。また、ランタン谷でもっとも需要があるのはバターで、これまでは個人的に作り売っていたが、これからは酪農組合が一手に取り扱うことになる。例えば、60リッターのミルクでは20リッターをバター、あとの40リッターでチーズを作るなど、グループが計画的に製造するということが話し合われた。
 バターはどのゴタルーも作ることができるが、下の3のグループは昔ながらの作り方で、製品として売ることができない。新たに2と3のグループは、バター作りのための少し大きめのクリームセパレーターの設置を希望している。

彼らが示したグループは次の通り。*は乳製品作りの責任者

グループ1:パルコー*、シンドゥム・ラクパバターとカチョカヴァッロ
グループ2:アンギュル*、ゴンバ・リンジン、チューキ、ツェリンバターとハードチーズ
プバ・ラクパ*、セダル、ニマ・チェーマカチョカヴァッロ
グループ3:
カンバ・ドルジェ*、トゥンドゥ・ワンドゥ、ソナム・ギャルツェン、ノルブ・パルダー、ゴンボ、ロプサン、シンドゥム・ドルジェ、ツェリン・ワンドゥ、チメー、ペーマラマ
ハードチーズ/バター、クリームチーズ

[グループ3は総ミルク量が少ないため、カンバ・ドルジェ以外はバター作りが中心になる。
今年の夏の放牧経路は家畜群がキャンチェン周辺に上昇してきたときに決定される。]

2.3 新生ランタン酪農組合

 ゴタルーたちが自分たちで価格を決め、自分たちで共同しながら乳製品を作る、というこの積極的な意識の変化は重要だと思います。
 そばにキャンチェンチーズ工場が在り、今新しい建物も建設中です。ゴタルーたちはこのチーズ工場に過去5、60年にわたってミルクを供給してきました。これまで価格の交渉もしてきましたが、ヘッドオフィス(カトマンドゥ)からの通達としてほとんど昔の価格設定で推移してきました。2016年の酪農組合発足以来、指導者の吉田全作さんのゴタルーたちへの適切なアドヴァイスや鼓舞が、ゴタルーの間に少しずつ自信となっていったのではないでしょうか。
 このシーズン通してゴタルー自身が乳製品を作るということは、すでに彼らの意識の中にチーズ工場へのミルクの供給という選択肢はないということです。
 シーズンが始まるまでに検討するべきことは多々ありますが、集会の場では例によって、満場一致で今年の方向が承認された。この新酪農組合の出現が「ゴタルー一人ひとりが酪農家として一定の収入を確保」する方向で進んでゆくことを願っています。

 酪農組合は,キャンチェンにチーズ貯蔵庫、ユルにランタン酪農組合センターハウスを中心に、以下のスタッフで運営します。新生酪農組合の組織は以下の通りです。

  • 所長:1名 センノルブ
  • 監査:1名 ングードゥップ
  • 売店スタッフ:女性1名
  • パートタイムのスタッフ:数名
  • アドヴァイザー:テンバ、ニマ、チチ貞兼

これまで私の活動を支えてくれた男たち。これからはかれらにランタン酪農組合の未来を託します。左からングードゥップ、センノルブ、私の右隣はカルマ・リンジンとニマ。
ランタンを離れる日、見送りにきてくれました。

3 最後に

 新所長のセンノルブが 「チチ、秋に一度来てみてくれないか?」といいます。まだ図面段階だが、チーズの貯蔵庫と酪農組合センターハウスの完成を見てもらいたいというのと、新しい体制での酪農組合の運営に何か手応えを感じているのかもしれません。彼の並外れた手腕はキャンチェン・ゴンバの再建や100キロワットの水力発電の現地采配でみてきたところです。この3年間の外国の支援などをみてきて、彼なりの新しい村の産業への希望を、そこに見出したのかもしれません。そうであれば嬉しいのですが。

 ゴタルーたちはあと1ヶ月後には夏の放牧地へと移動を始めます。

 間も無く今回の二つのミッションを終えて、ネパールを離れます。帰国次第、すぐに支援のキャンペーン(お金集め)を始めなければなりません。

スワヤンブナートのテンバの家にて 貞兼綾子2018.5.22